第二章 各人各様

※作品概要はこちら
※PDF版のダウンロードはこちら
第一章 副業/本業/外道
第三章:機械の如く






============= 幕間 憧憬 =============





 月峰時夜の意識が戻ったのは、深夜午前二時の事だった。
 集団暴行から救われて約二時間。
 周囲には車の音も人が行き交う音もない。
 時夜は少しずつ覚醒する意識にあわせ、ゆっくりと瞼を開けた。
「起きた? さっきはありがと。キミが彼らの目を引いてくれたおかげで、不意打ちで楽に殺せたよ」
 女の子の声がした。
 後頭部に柔らかい感触。
 視界の先にはほどよい、いや、十分な二つの膨らみがあった。
 女の子、柔らかい、二つの膨らみ。
 頭の中にそんなキーワードが浮かび上がる。
 時夜は喉をごくりと鳴らし、膝枕されていることと、視線の先にある立派なふくらみが何であるかを理解する。
「……俺、助けられたんだな。いづづ……顔、腫れてる?」
 膨らみに触れないよう、しかし視界から逃さないようにその部位を映しつつ起き上がる。
 周囲は一面、グラウンドのように平らな砂地。
 視界左手には城の形をした会館があり、視界右手には小さな池がある。
 時夜は今いる場所を把握した。
 暴行を受けた場所から徒歩五分、駅前観光地のひとつ、豊跡とよあと城だ。
 豊跡市民であれば、誰もが一度は来たことがあるだろう。
 城自体は会議会館として内装を作り変えられており、庭は砂地のまま駐車場として利用されている。
 会館への扉は閉ざされているが、城内庭までなら二十四時間出入り可能となっている。
 時夜と少女がいる場所は入口付近に設置された、背もたれつきの木製ベンチだった。
「ケガを確認したいなら、写メ撮ってあげるね。……はい、こんな感じ」
 少女はスカートのポケットからスマートフォンを取り出し、時夜の顔を撮影して見せる。
 画面に映る時夜の顔は青痣だらけで、瞼は腫れあがり、口元には血がこびりついていて、鼻血と混じって固まっている。
「うわっ! 俺ぶっさ! 超ぶっさ! つか、喋ると身体痛ぇ……っ!」
 時夜は容姿の変貌ぶりに驚き、身体に奔る痛みにうずくまる。
「結構明るいんだね、キミ。もっとクールな感じかと思った」
「そうか? まあ、喧嘩ふっかけちまったからな。闘う時はクールになるもんなんじゃねえかな」
「喧嘩好き?」
「いいや、喧嘩なんざ小学生以来さ」
「じゃあ、そんな久々の喧嘩で助けられた私は運が良いのかもね」
「俺はやられただけだぜ……ってそうだ! お前、もしかしてアイツらを――」
「殺したよ。キミのおかげで楽に。誰にも見つからずに殺せたから、助かったんだよ」
 少女は笑みを浮かべた。
 それは恐ろしい笑顔などではなく、ごくごく普通の少女の微笑ほほえみだった。
「もしかして今までにも、人を殺したことがあるのか?」
 時夜の声が若干低くなる。
「あるよ。私に敵意を向けて、具体的な行動を取ったらアウト」
 少女はジェスチャーで自分の首を刎ねる仕草をして見せる。
「……人を殺したときって、後悔とかするのか?」
「後悔? うーん、私は『敵』を人として見ないから、別にないかな」
「人を殺すことについて、どう考えてる?」
「自分が安全快適に生きるためには、排除しなきゃいけないものがたくさんある。時に人の命を奪うことがあるのは当然って考えてるかな。人を殺してもバレなければ良いだけだから、検挙率九五%以上を誇る優秀な警察組織を欺ける自信があれば、殺す方が得だよ」
 少女は友達とおしゃべりするようなトーンで会話を続ける。
「ちなみに豊跡市は人を殺しやすい地域で、なんと殺人検挙率はたったの六二%。この六二%っていうのは去年の数値で、検挙二三件/認知三七件で六二%。一件一人で考えると、三十七人殺しても十四人分はバレないのが豊跡市。
 で、普通の人は人殺しなんてしないからったときに簡単に捕まっちゃうんだけど、実は殺人をしようと思って過去の事例とか現在の殺人事件の捜査方法とかを勉強すると、一気に捕まる可能性を減らすことができるんだよね。
 簡単に言うと『目撃されない』『殺人時の音を聞かれない』『現場ごとに凶器、殺人方法、服、靴とかを変える』『家宅で人を殺すときは自分以外の髪の毛を現場に残しておく』とかかな。
 まだまだいっぱいあるんだけど、証拠になりうるものをひとつひとつ隠蔽、偽装していけば、捕まる可能性をどんどん下げられるよ。
 ついでにいうとウチの窃盗検挙率は四〇%くらいだから、日常的に『窃盗した方が得』だったりするよ」
 少女は楽しそうに話した。
 時夜は少女の話を感心するように聞きつつ、
「窃盗もしてるのか?」
 質問を投げかけた。
「窃盗はしてないよ。別に欲しいものとかないし。お金にも困ってないし。私が人生で犯した犯罪はただひとつ『殺人』だけ。
 もちろん、殺したのは『敵』だけだよ。殺人なんてアタマの悪いことはしたくないけど、敵は敵になった時点で殺しておかないと復讐、粘着、つけあがりのリスクがあるからね。
 その場で始末する方が合理的かな。ってか、正当防衛でナイフでの殺人がアリだったら良いんだけど、過剰防衛扱いされちゃうからホントめんどいんだよね。それさえなければ殺しやすいし、隠蔽もしなくて済むからラクなのに。
 何で加害者に手厚いようにできてるんだろうね」
 やれやれと肩をすくめる少女。
 だが、特に憤慨してるという様子もなく、
「ま、法律ルールがどうであろうと、好きなようにするけどね」
 少女は目を細めてニヤリと笑う。
 時夜は右頬に汗をたらしながら、だが、少し嬉しそうに、
「それでお前は自分の望む幸せというか、より楽しい明日を手に入れることができてんだよな?」
 望む答えを返してくれといわんばかりに問いかけた。
「うーん、どうかなぁ。どちらかといえば、楽しい毎日が邪魔されないようにしてるだけなんだけどね。楽しく生きていたいから、邪魔なモノを斬り捨てる。取捨選択が速くて上手ければ、迷う間もなく幸せが続く。『あ、わたし得できてるー』みたいな感じだよ」
 それが少女の回答だった。
 その答えに時夜の顔が崩れる。
 怒りでも悲しみでもなく、喜びで歪む。
 顔を片手で押さえるが、喜びに溢れんばかりの感情を抱いていることは誰が見ても明らかだった。
 もう片方の手は力強く握られ、顔の横でわなわなと震えている。
「あった……あるもんなんだな……俺の望んだ在り方……その、体現!」
 時夜は両手を広げ、夜空を仰ぐ。
「見つけた! 俺の最大幸福! こんなキチガイに出会えるなんて、ホント、すげーじゃねえか、俺の人生……っ!!」
 噛み締めるように、押し殺すように、威圧を込めた啼声なきごえをあげる。
「アレ? 私今、すっごい失礼なこと言われた?」
 困った表情を浮かべる少女。
 時夜は少女に駆け寄り、その手を取る。
「惚れた。好きだ。お前の全てを教えてくれ。俺の名前は月峰時夜。知りたいことの優先順位は殺人技術、お前自身、あと……性癖その他諸々だ!」
 少女は当然のことに戸惑いつつ、ひとつ深呼吸。
 落ち着いたところで、
「やだ。好きくない。教えない。殺人技術は自分で覚えるもの。他人の事は日常会話から探るもの。そして……性癖は隠すものだよ」
 したり顔で答える。少女は小さく「ドヤァ…」とつぶやく。
「そうか、わかった。よし、殺人技術の前に、まずは名前を教えてくれ」
「話聞いてないね、キミ……」
「名前♪ 名前♪」
 時夜は楽しそうな感情を一切隠さず、少女に名前の公開を要求する。
 少女は呆れたようにため息をつき、自身の名前と所属を口にした。
「……魅刻悠里。君と同じ学校。クラスは二年B組」
 時夜は鼻息を荒くして少女から出てくる情報を興味深々に聞く。
「なるほどなるほど……ってアレ? 何で同じ学校ってわかったんだ? 男子の夏服はどこも似たようなもんだし、学校の特定とかできなくないか?」
 少女――魅刻悠里はニヤリとして、スカートのポケットからソレ・ ・を取り出し時夜にほうり投げた。
「財布? しかも……俺のっ!?」
「財布に個人情報詰めてたら、そりゃあわかるよね~」
 時夜はあわてて財布の中身を確認する。
 小銭も紙幣もポイントカードも図書カードもクオカードもなくなっていた。
 学生証だけはどうでもいいといわんばかりに残っている。
 時夜はジト目で悠里を見やる。
「窃盗はしないんじゃなかったっけか?」
「うんしないよ。キミが死んだときのために預かっておいただけ。でも、返すのめんどいし、『名前を教えてあげた代』として貰っておくね。ほら、これで窃盗じゃありませーん」
 まったく悪びれもせず、悠里は天使のように悪意のない笑みを浮かべた。
 その笑顔に見とれ、時夜は頬を赤らめる。
「なるほど……窃盗の検挙率が低いわけだ」
 愚痴るように、照れを隠すようにつぶやく。
 午前二時半、奇妙な出会いがそこにあった。






============= 第二章 各人各様 =============






 平地に囲まれた小さな山の頂点に位置する県立豊跡とよあと高校。
 その通学路や ま み ち。通学以外に利用されない専用道路の脇に、一人の男子生徒が立っていた。
 上り坂が始まらんとするその開始地点で、
「来いよ悠里、今日こそ一緒に登校してみせるぜ」
 月峰時夜は通学カバンを片手に一人の少女――魅刻悠里を待っていた。
 時夜と悠里が出会って一ヶ月、二人は頻繁に話すようになった。
 が、決して恋人関係などではない。
 時夜の執拗なアタックに対し、悠里はソレを即答で断り、拒否し、遠慮し続けた。
 数にして二七回。食べ物を驕るデートの誘いであれば一〇〇の確率で成功するが、恋愛関係になろうという誘いはてんで駄目だった。
 不意に、一人の男子生徒が時夜に話しかけてきた。
「時夜、今日もなんだな。まぁ……頑張れよ。今六時だけど、登校時間八時だけど、今日も頑張れよ」
「おう、そっちも朝練がんばれよな。一人で坂登んのが寂しかったら、俺がどれだけ悠里のことが好きか語るけど、聞くか?」
 時夜は満面の笑みで返事を返す。
「勘弁してくれ、この一ヶ月で死ぬほど聞いた。朝練の、剣道のイメトレがしたくて仕方がないくらいさ」  
 苦笑いを浮かべ、学友は坂を上り始める。
「剣の道がんばれよ~」
 時夜はその背を見送って、一人楽しそうに悠里を待つ。
「さて、今日は当たるかねぇ……」
 時夜はこの一ヶ月で思い知ったことがある。
 それは魅刻悠里という女子がとにもかくにもマイペースだということだ。
 彼女は登校時間や通学ルートをその日の気分で変える。当然のように変更するのだ。
 悠里に対し、待ち伏せが有効な場所はただ二つ。
 正門ルートか裏門ルートだ。
 豊跡高校は小さな山のいただきにある。
 学校への通学山道路は、山頂である学校を中心にして、正反対に一ヶ所ずつ。
 正門ルート。緩い斜面で通路が広く、道路整備のされた一般通学路。
 裏門ルート。急な斜面で通路が狭く、道路整備のない山道。
 時夜は『今日の悠里は正門ルートから来る』と判断し、緩い斜面で彼女を待ち伏せる。
「つーか、悠里が待ち合わせとかしてくれればなぁ」
 時夜は肩を落として愚痴る。
 魅刻悠里と待ち合わせが出来れば話は早いのだが、彼女は待ち合わせをしない。
 仮に待ち合わせても、まず間違いなく時間通りに来ない。
 時夜は一度、一緒に登校しようとしつこく誘い尽くし、彼女と待ち合わせたことがある。
 だが、悠里は当たり前のように遅刻した。というか来なかった。
 待ち合わせに遅刻したというよりも、朝起きれなくて、昼から登校したのだ。
 本人曰く『その日の夜にインターネットで面白いことがあったら、次の日は起きた時間が起床時間。欠席も持さない』とのこと。
 彼女が豊かな胸をそらしてそう言ったのを、時夜は胸を凝視しながら聞いていた。
「マイペースっつうか、ダメ人間だな、アイツ」
 魅刻悠里の人間性について批評を行い、
「まあ、悠里はキチガイだからな」
 と、時夜は納得したように笑ってうなづいた。
「時夜にだけは言われたくないなぁ」
 横から軽く小突かれる。
「よー悠里、おはよう」
「おはよー。昨日は早く寝たから早く起きちゃった」
 軽い挨拶を終えたところで、時刻は六時十五分。
 帰宅部の二人が登校するには早すぎる時間帯だ。
「久々に早起きしたし、早く学校に行って静かに過ごすのも良いよね」
 このように、魅刻悠里の登校時間は早いときは極端に早く、遅いときは昼を越える。
 一種の問題児的行動をなんの躊躇いもなく取る。
「お前、先生から怒られたりしねーの?」
「全然。だって、遅刻するときはちゃんと嘘つくもん。言い訳と演技は得意なのだぜ!」
 悠里は親指を立て「><」の表情で自身の悪行を自慢する。
 時夜は頬を緩ませ「コイツ可愛い」と小さくつぶやきつつ、
「んじゃま、ちょっと早いけど坂、登るか」
「Oh Yeah!」
 足並みをそろえ、二人はゆっくりと坂を登り始めた。
 数秒歩いて、 
「で、俺の初殺人に選んだ害悪ク ズが殺された事件の話がしたい」
 時夜は早朝に似つかわしくない話題を切り出した。
 二日前の夜、豊跡高校二年C組の男子生徒四人が殺されるという事件が起きた。
 翌日朝には『男子生徒四人猟奇殺害事件』と銘打たれ報道された。
「昨日からそればっかりだね。そんなに標的を殺されちゃったことが悔しいの?」
「超悔しい。昨日殺すつもりだったのに、学校来て『アレ? アイツらいなくね? → 昨晩殺されました』だぜ? どんな性典の癖歴だよ」
「青天の霹靂ね。その字面だと性癖本の歴史になっちゃうからね」
「文字でボケたくなるくらいにやってられねーってこった」
 ぶっきらぼうに言う時夜。
 悠里は頭に指を当てて、
「うーん。自分の手を汚さずにすんだんだから、喜ぶべきことだと思うんだけど?」
「わかってねーなー。『害悪排除ク ズ ご ろ し』は自分の手でやんなきゃダメなんだよ」
「ふーん。で、事件の詳細調べたんだっけ? どんな感じだったの?」
「報道を見る限り、佐田、今村、梶原は公園で刺殺、撲殺、斬殺されて、斉藤力也は自宅で銃殺されたって話だ。四人全員を殺すまでにかかった時間はおよそ一時間。犯人の人数は不明だが、動機は金って推測されてる。俺は『金はカモフラージュで、俺と似た考えの持ち主が一人でやった』って思ってる」
「犯行に一時間かけてるところを考えると、私も犯人は一人説に賛成。お金に関しては、報道だけじゃ何が真実かは判断できないね。それで、もし犯人の動機が『クズだから殺した』って話だった場合、時夜はどう思うの? 仲間が出来て嬉しいのかな?」
「全然。むしろ逆、ぜってー許さねえ」
 時夜は呆れたように唇をとがらせた。
 悠里は不思議そうに首をかしげる。
 時夜はムスっとした表情のまま、
「思うに、この犯人は『殺すこと』が目的なんだ。四人の死因、全部違うだろ? 斬って、殴って、刺して、撃ち殺してる。
 俺だったら全員同じ方法で殺す。
 一回の犯行でわざわざ違う殺し方をする意味も理由もメリットもない。だけど、この殺人犯は全員違う殺し方をしてる。ってことはきっと『殺すことそのもの』に価値を見出しているんだ」
 時夜がふてくされたように話すのを聞いて、悠里は納得したように手を合わせる。
「そっか、時夜の場合は『殺した結果・ ・、より楽しい明日が手に入る』って考えで人を殺そうと思ってるから、殺人そのものは機械的で良いんだ」
「そゆこと。だから、バリエーションを変えて殺すだなんて、そんな楽しむような殺し方は理解できない。だって人殺しだぜ? それ自体は決して楽しむべきものじゃねーだろ?」
「そこは同意。でも、私の場合、殺すときに効率ばっかり考えてるから、職人的な殺人技術への充実感は求めてるかな。殺人が上手くいったら気分が良いというか、楽しい気持ちになるし」
「殺人は楽しくて良いと思うぜ。敵を殺すことによって人生から障害が取り除かれるわけだから、楽しくて当然。俺が言いたいのは『殺す最中を楽しむのがどーかと思う』って話さ。まあ、もし犯人の思想が俺と同じような害悪排除ク ズ ご ろ しだとしたら、俺が殺すべき相手は何にも優先してそいつになる。理由なんかない。ただの嫌悪。上手く言葉に出来ねーけど、なんつーか『引っ込め、俺に殺させろ!』って感じだ」
 眉間にしわを寄せる時夜。
 気持ちを上手く言葉にできず、もどかしそうにする。
 悠里は冷静な表情で、
「『思想を持って人を殺す』のはマイナーな在り方だから、その行為を自分だけで独占したいのかもね。他の人がしないことをするのは、それ自体に希少価値があるっていうし」
「なるほど、そういう心情はあるかもしれねーな」
「とりあえず正門が見えてきたし、物騒な話は終り。昼休みにまた、寂しがり屋の時夜に付き合ってあげるよ。じゃ、私は食堂に大事な交渉をしにいくから」
 悠里は敬礼の真似事をしつつ、正門をくぐり、食堂の方へ向かっていった。
 時夜はその後姿を見やり、踵を返して、登ってきた坂を降り始める。
「……早い日は、コンビニで立ち読みでもしねーと暇すぎんだよなぁ」
 時刻は六時三十分。
 朝のホームルームはまだまだ先だ。








 豊跡高校二年A組。
 あと五分でホームルームという頃。
「時夜、面白いニュースを聞かせてやろう」
 時夜の肩を叩き、クラスメイトの猪狩明道が話題をふってきた。
「一昨日、二年C組の斉藤、佐田、今村、梶原が殺されたそうだ」
「もう皆知ってるっつの。つーか、お前昨日なんで学校来なかったんだよ? 左腕に包帯巻いてるし、眼鏡まではずして……イメチェンか?」
 いつもと雰囲気の違うクラスメイトに、時夜は訝しげな視線を送る。
「俺も高校生だ。見た目くらい時期よって変わることもある。左腕はアイドルのダンスをマネして転んで盛大にぶつけただけだ。
 それより、四人が死んだニュースだ。
 俺は昨日学校に行く前にそのニュースを知ったからな、それを調べるために自主休暇を取った。
 同じ学校の人間が四人も死ねば当然気になるだろう? 
 それに一ヶ月前、駅前では他校の男子高校生が六人も殺されている。男子高校生だけが短期間で十人も死ねば、同じ男子高校生として身の危険を感じざるを得ない。何が起きているのか把握しておくべきだろう?」
 明道は中指を眉間に持っていく。だが、眼鏡がないためそのまま眉間を押してしまう。
 時夜は苦笑いで明道を見つつ、
「……男好きのキチガイでもいるのかねぇ」
 視線を左上に向け肩をすくめる。
「未成年好きと考えれば、趣味の偏った女性かもしれん。いや、むしろ男性であった方が話としては面白い。最近の男性は男好きが多いからな」
 明道は嘆く。
 時夜は腕を組み、
「何にせよ、放課後はすぐに帰宅した方がよさそうだな。で、明道は二年C組の四人が殺された事件、先月の男子六人が殺された事件と合わせてどう見てるんだ?」
 明道も同様に腕を組み、
「俺は『一ヶ月前の男子高校生六人の殺人事件と一昨日の四人の殺人事件は関連している』という世間の見方とは違う見方をしている。先月の事件は芸術的な斬殺だったの対し、一昨日の事件は猟奇的で殺し方が多彩だったらしいからな。かかわった人数はわからないが、違う人間が殺人に関わったのは確かだろう」
 明道の言葉に、時夜は眉をひそめる。
「芸術的な斬殺ってのはどこの情報だ? 初めて聞いたぜ」
「ネットだ。第一発見者が通報する前に死体の撮影をした奴がいたみたいでな。
 ネットの片隅に死体の画像が落ちていた。斬殺の跡を見る限り、先月の六人は機械に殺されたのではないかというくらいに、的確に急所を狙われ命を絶たれていた。
 豆腐を切ったのではないかというくらいに、殺傷の跡が綺麗だった。
 そんな斬殺犯が二年C組の男子四人を殺すのに一時間もかけるとは到底思えない。関わった可能性はあるが、報道で『猟奇』と謳われていることを考えると関係は薄いと見て良いだろう。
 先月のは芸術、今回のは猟奇。この差は圧倒的だ。それで、時夜は二つの事件をどういう風に見てるんだ?」
 明道は事件についての感想を語り終え、時夜に感想を促す。
「俺が興味あるのは犯人が『どういう思想でどんな人間を殺したのか』ってとこだな。ネットの掲示板とか見ると、どっちの事件も殺されたのは『不良』だったって話だ。
 それぞれの事件の犯人が違うのなら、『似ているけれども決して一致することのない思想』で人を殺した可能性がある。俺はその『思想の違い』に興味があるな。どっちも殺人犯だけど、そこに至る過程とか殺し方の違いってのはやっぱ『その人間の本質』が関わってるだろうからさ。犯人が何を考えているのか、興味本位で知りてーな」
「なるほど、時夜らしい感想だ。着眼点が思想ということは、それだけお前は人間に興味を持っているのだろう。俺にはないものだ。もしその違いがわかったら教えてくれ」
 言葉と同時にチャイムが鳴る。
 時夜は思い出したように、
「それはそうと、例のカンニング補助代、やっぱちょっとだけ負けてくんない。一万四〇〇〇円+延滞料はキツイって」
「断る。払え。そもそも、お前は俺に頼らなくとも欠点など取らないだろう。彼女が出来たのかなんだか知らないが、急に勉強しなくなったな」
「え? 彼女? あー、うん、彼女だよな。うん、悠里はぁ~俺のぉ~カノジョぉ~ぐへへへへ」
 時夜は緩い表情で体をくねくねとさせる。
「……何も言うまい」
 明道は数歩退いて、自分の席に戻った。
 今日が始まった。








 三限目。
 本来なら教室で授業を受けているはずの猪狩明道は、なぜか物理教室にいた
「すみません。休憩中にお呼びして」
 そう言って自称美人物理教師――倉田物成に頭を下げる。
「構わないよ。超常現象についての質問とあらば、教師の雑務なんて余裕で後回しだ。それで、何を聞きたいんだい?」
「この模様を見ていただけますか?」
 明道はポケットから四つ折りにした紙を取り出し、開き、その模様とやらを倉田に見せる。
 紙には奇怪な紋様が描かれていた。
「この模様が何かを知りたいんです。おそらくですが、超常現象と関係があると思います。一昨日の夜、涼むつもりで外を散歩してたらこの模様の光を見かけたんです。
 信じられないと思いますが、こう、宙に模様と言うか、緑色の光が浮いてて、そのあと凄い勢いで消えたんです。
 それがもし超常現象と関係があるなら、本当にお金になるかもしれない。
 ネットや県の図書館ではそれらしい資料を見つけることができませんでした。
 先生がこの模様について何か知ってたら教えてください」
 訊ねられた倉田は両手の人差し指で左右のこめかみを押し込み、うーんうーんとうなる。
 しばらくうねった後に、
「思い出した! そう、文化財センターで見たんだよ、この模様」
 指をぱちんと鳴らし、知っている情報を話し出した。
「一昨日話した県の埋蔵文化財センターの話を覚えてるかい? あそこに展示されている文化財の一つに水晶があって、その水晶にこれと同じ模様が刻まれてたよ。資料を見せてもらったんだけど、『狩猟の成功を祈願する祭具である可能性がある』って話だったよ」
「『可能性がある』ということは、確定ではないんですか?」
「うん。大学の教授と連携をとって調べてみたらしいけど、大昔、この地で狩猟を行っていた頃のモノって事以外は全部が推測のレベルでしか語れないそうだ。
 局長曰く、同時に発見された石版に『人』を中心にして『目』『鼻』『耳』『太陽』が描かれていたことと、時代背景と狩猟が上手くいっていたという歴史的な資料や事実から、
 狩猟をサポートするための道具、もしくは信仰の祭具だと考えられるんだってさ。
 超常現象好きな僕としては、狩猟を円滑に行うために目、鼻、耳を強化するアイテムだったって考えたいけどね。
 なんせ水晶に紋章が刻まれてるんだ。その水晶が超常現象を引き起こすものだったと思うほうがロマンがある。
 おっと、『科学的じゃない』なんてつまらないことを言わないでくれよ。起こり得た現象が全てに優先して、それを数字と論理で解き明かすのが科学。現象に対して起こり得ないだなんていうのは暗記バカの言うことだ」
 倉田は楽しそうに、長々と説明をしてくれた。
「ありがとうございます。狩猟に関係するものだったなら、紋章が過去を忍んで夜の豊跡をさまよっていた、と思えば納得できなくもありません。ええ、実にロマンのある話です」
 明道はやれやれといった様子で肩をすくめ、
「思ったより、超常現象というのは面白いですね。今度、文化財センターに行ってみます」
「その紋章、センターでは狩猟の紋章って呼ばれてるみたいだよ。僕も超常現象に関係してると思ってるから、何かわかったら教えてくれ」
「はい。もし何かわかればお伝えします。では、怪しまれないうちに教室に戻ります。腹痛にしても、帰りが遅すぎると疑われてしまいますからね」
 明道は席を立つ。
「ところで明道、左腕の包帯と、眼鏡を外したのは何でだい? ケガ? イメチェン?」
 明道を見上げ、倉田は尋ねる。
 明道は視線を斜め右下に向け、頭をかきながら、
「左腕はアイドルのダンスをマネして転んで盛大にぶつけただけです。眼鏡を外したのはコンタクトの方が良いって好きな女の子に言われたからですよ」
「明道は恥ずかしげもなく言うから、ホントか嘘かがわかりにくいな。ま、疑って意味のあることでもないし、話はこれでおしまいにしよう」
 会話を終え、二人は物理教室をあとにした。








 午前十一時。
 住宅街。
 斉藤力也宅付近。
「ご協力ありがとうございました」
 そう言って、一軒家からスーツの女性が出てきた。
 見たところ二十代半ばといったところ。若さに満ち溢れた眼差しをしている。
 女性が住宅路に出ると同時に、一台の車がやってきて、女性の前で停まった。
 ウィンドウが開く。
「昨日できなかったぶんの聞き込み。こっちは全部終わったぜ。そっちは?」
 分厚い男性の声が女性に問いかける。
「こちらも全部終わりました。署に戻りましょう、課長」
 女性はドアを開け、助手席に座る。
 車は署とやらを目指して発進する。
「こっちは収穫ナシ。そっちはなんか新しい情報あったのか?」
 運転席。角ばったジャガイモのような顔をした男性が話を切り出す。
 見たところ三十代後半、精悍な顔立ちだが、眼差しはややグロッキーである。
 男性もスーツだったが、ネクタイはしていなかった。
「ないですね。誰一人目撃者も、不審に思ったこともなかったそうです」
「となると、現場に残った情報と被害者の交友関係から出てくる証言とかが頼りだな」
「このあとの捜査会議で新しい情報来ますかね?」
「たぶん来ねぇだろうな。出るのは『殺されたヤツが周りから好かれてなかった』って話だけだろ。
 さっき鑑識に聞いた。
 いつもどおり『過去の豊跡市内未解決殺人事件の犯行現場に残った靴跡と全て一致しない・ ・ ・ ・ ・』『犯人が捜査かく乱のために撒いたと思われる複数の髪の毛があった』だとよ。
 ひでー殺し方は一致するが、現場に残った証拠がちっとも一致しないパターン。
 銃殺ってことで狩猟免許持ってる人間を片っ端から洗ったが、これまたいつもどおり全員シロ。ここ数ヶ月、店舗、ネットで購入された『犯行に使われたものと同じ銃弾』の行方にも不振な点はナシ。
 めんどくせーけど、『猟奇ヤ ツ』だ」
 男は憂鬱そうに溜息をつく。
 女性も同じく溜息をつき、
「やっぱ『猟奇ヤ ツ』ですかぁ~……また胃がキリキリする日々ですかぁ~。もう無理ですって、犯人人間じゃないんじゃないですか? 
 定期的に人を殺して目撃も証拠も残さないっておかしいじゃないですか。全国の殺人検挙率が九五%くらいなのに、『猟奇ヤ ツ』のせいで私の大好きな豊跡市の殺人検挙率六二%ですよ。
 もうアホかって話ですよ。
 えーえーマスコミにもテレビにも散々無能扱いされましたよ! 県警からも所轄の私らがクズだのなんだの言われましたよ! 
 それなのに『猟奇ヤ ツ』は殺されるべきクズを殺しているとかでネットじゃヒーローだったりしますよもう!」
 泣きそうな声で訴える。
「今年ペースはやくないですか? いつもだったらもうちょい間隔空けるのに、なんで先月六人、一昨日四人で十人も殺しますかねぇ……」
 女性は言葉に力を込め、嫌味を言うような声音でぶつくされる。
 男性の眉がピクリと動く。
「ちょっと待て。九道……てめぇ管轄が違うからって、事件の詳細ちゃんと見てなかったな? 先月と昨日の事件は殺し方が明らかに違うから犯人は別人だぞ」
 男性は覇気のある低い声で言う。
 九道と呼ばれた女性はびくりと肩を震わせ、
「えっ、そうなんですか!?」
「『えっ、そうなんですか』じゃねえこのヒヨッコ!」
「うぎゃっ!?」
 男性は小さめに怒鳴り、九道の側頭部を小突く。
 痛かったらしく、九道は涙目で側頭部をさすりながら頭を下げる。
「す、すみませんでした。で、その……詳細教えてください」
 謝りながらお願いする。
 申し訳なさそうにちじこまり、顔の前で両手の人差し指を合わせている。
 男性は「ったく」と不機嫌そうにしながら、
「先月の事件は『死体の切り傷が芸術的に綺麗だった』ことと『殺された男子生徒以外の血液、指紋があった』こと『被害者が不良だった』ことから『機械ヤ ツ』の犯行で、『救われた誰かがいた』っていう見方になってる。んで――」
「――すみません、『機械ヤ ツ』ってなんでしたっけ? ド忘れしちゃいました!」
 会話をさえぎり、九道は手のひらを正面に突き出し、正直にそう言った。
 男性は脱力し、
「……萎えた。自分で調べろ」
「そ、そんなっ!」
「刑事たるもの、自分で調べる能力も必要なんだよ。あとでテストな。答えられなかったら南署の刑事課全員にメシ驕れよ」
「のぅ! ヤです! 若者なんでお金ないです!」
「じゃあ、勉強するこったな。これを機会に、『機械ヤ ツ』と『猟奇ヤ ツ』の資料を五年~八年分、じっくり読み込んで来い」
「うぅ……麻生課長のスパルタオヤジ~」
 九藤は泣きつくような声でうなだれる。
 その後も九道は説明を頼んだが、麻生なる男性が答えることはなった。








 県立豊跡高校。昼休み。
「せいっ、は……っ!」
 炎天下の中、月峰時夜は屋上にて訓練に励む。
 片刃の短刀サ バ イ バ ル ナ イ フを用いた近接戦闘演習。
 誰もいない空間に仮想の敵を想定し、斬りと突き、時に拳打を交えて想像上の殺人をこなしていく。
 短刀操作、空手技術、ともに独学。
 魅刻悠里に教えを請うたものの、最低限の事しか教えてもらえなかった。
「最低限でも、教えてくれるだけありがたいんだけどな」
 深呼吸、教わったことをつぶやくように反芻はんすうし、再現する。 

壱 殺すべき標的に接近し、

弐 狙うべき焦点を目測し、

参 一撃で斬り殺す。

 それが悠里に教わった殺し方きほん
 余裕があれば、二撃、三撃でより確実に止めを刺すのもアリとのこと。
「なあ悠里、アタマで仮想イメージする敵は確実に殺せるようになったんだが、実践で一撃必殺なんてできんのか? 素人意見で悪いんだが、ナイフで一撃必殺なんて無理じゃねーか?」
 時夜は借りたナイフを見つめながら問いかける。
 問いかけた先、ナイフの持ち主である悠里は、
「へ、らに? ひまマぐお食べへるからひほがしい」
 と言い、小皿に載ったマグロの刺身をぱくぱくと、それはもう至上の幸福の最中であると誰が見てもわかるように、にこやかに食べていた。
 小皿の刺身を食べ終え、傍らに置いたクーラーボックスから『新たなマグロの刺身』を取り出す。
 幾度となく食堂に交渉し、調理師と友好関係を築き、五人前のマグロの刺身を予約した成果がここにある。
 胸ポケットからお気に入りのさしみしょうゆを取り出し、垂らし、胸ポケットにサッと戻す。
 流れるような無駄のない動き。
「すまん、自分で考える」
 時夜は壱、弐、参を繰り返し、仮想演習を続けた。
 後ろで「いや~ん、マッグン超おいし~大好き~」などという甘ったるい声が聞こえ、時夜の顔が一瞬にやけそうになる。
 が、思考の冷徹化につとめるように表情を固めて、鍛錬を継続する。
 数秒あれば鍛錬に集中できるようで、時夜は教わった行動を機械の如く、同じ速さ、力量、速度で繰り返す。
 感情を殺したように、決められた行動を決められた労力で遂行する。
「つーか、どれだけ即死を狙っても、痛みはゼロじゃないよな」
 壱、弐、参を繰り返し、
「……今の俺じゃ、無理か」
 肩を落とし、瞼を瞑る。
 瞼の裏に、先月の殺人風景が映し出される。
 一ヶ月前、月峰時夜の心を焦がして止まなかった魅刻悠里の芸術さつじん
 まるで静止したときの中を奔るように、銀の軌道だけが鮮明だった。
 彼女に『敵』と定められた者が、確定した絶命に向かって時を刻む畜生に成り果てる様を見た。
 時間を数えようとしたときにはもう、絶命を終えている。
「そんな、刹那の殺人だったよな……アイツら、殺されたことにも気づいてないように見えたし」
 時夜の身体が震える。
 瞼を開けると、日差しはなおも暑く照っていた。
「何時思い出しても……俺の嫁は綺麗過ぎる」
 そういって見やった意中の相手はマグロの刺身五皿を完食し、時夜のお金で買ったペットボトルのお茶を飲み、幸福に浸っていた。
「はーあたしゃー満足だよー。んで、時夜、何か用?」
「いや、自己解決した。悠里先生と俺とでは、技術と経験の差が圧倒的らしい。ま、愚直に努力するわ」
 時夜はそう返答して、基本の拳打、斬り突き、壱弐参を繰り返す。
 悠里はそんな時夜の姿をぼーっと眺め、
「そういえば時夜の『より楽しい明日のために害悪ク ズを殺す』っていう考え方について質問があるんだけど、より楽しい明日って、人を殺さなくても手に入るんじゃないの?」
 時夜は鍛錬の手を緩めず、
「考え付く限り、自分の幸せは求め、実践し尽くしたさ。で、もっと楽しく生きれたら良いよなって考えて、害悪排除ク ズ ご ろ しだけが残った。俺がこれ以上楽しむためには、俺以外の人がもっと楽しく生きて、世の中を面白くしてもらう必要があると思った」
「でも、人がより面白いものを生み出すためには、反面教師としてその害悪ク ズっていうのが必要なんじゃない? 害悪ク ズに出会って散々な想いをしたからこそ、強い心、魂、信念、執着を持つって考えることも出来る。世の中の凄い人って、結構幼い頃のトラウマを元に強くなってたりするじゃない?」
「言うとおり、そういった経験で強い意志を持つことは大事だ。
 だけど害悪ク ズがそのまま生き続けてるってのが気に食わない。
 誰かに強い動機を与える意味ではある程度害悪ク ズも必要だろうさ。
 けど、世の中害悪ク ズが多すぎんだよ。無限にいるなら、俺個人が目に見える範囲で何人、何十人の害悪ク ズを殺したところで、この世に生れ落ちた害悪ク ズの総数からいえば誤差の範囲だぜ」
「誤差なら、害悪ク ズを殺す意味はないんじゃない?」
「意味ならあるさ。俺が幸福を感じることができる……はずなんだ。俺は正義で動くわけじゃない。
 害悪ク ズが消えることで、世界がより面白くなる可能性に賭けてる。今までは倫理的、常識的に挑むことができなかった。
 でも、挑むだけの、挑んでみたいと思わせるお前に出会った。まあ、なんつーか、お前に惚れたから、自分を貫いて戦ってみたいんだよ」
「なるほど、わからん。まあ、自分が正しいと思ったんなら、最後まで貫けば良いよ。あ、私は時夜のこと好きじゃないから、そのへんはドンマイ」
 にこやかに言う悠里の前に、時夜の鍛錬の手が止まる。
 額の汗をぬぐい、
「……恋も理想も、困難な方が生きがいになるってもんだ!」
 負け惜しみのように、強がるように言葉の抑揚をあげ、鍛錬を再開しようとナイフを構える。
 一息吸い、腕を振りかぶって、
「――月峰君、いますか!」
 屋上のドアが勢いよく空けられた。
「いっ――っ!?」
 時夜は背後からした声と音に肩をびくつかせる。
 慌てて手に持った凶器を隠そうとして、
「……ない?」
 それが自分の手にない事に気づく。
 確かに握っていたはずのナイフがない。
「あらま火憐。どーしたの?」
 時夜の真横から悠里の声がした。
「ちょっと月峰君に用があって」
「何かやらかしたの、時夜?」 
 悠里はジトっとした横目で時夜を見て「ちゅういぶそくだらしない」と小声で毒づいた。
 その手にはナイフが隠すように握られており、突如現れた女子生徒、吸坂火憐からは死角になっている。
「えーと、俺、何かしたっけか?」
 思い当る節がないというように、時夜は頭をひねる。
 火憐はむすーっとして、
「カンニングをしました」
「あー……」
 時夜は過去の行いを思い出し、気まずそうに声を漏らす。
「いや、その、悠里のことを考えてたら勉強とか超どうでもよくなって、でも、勉強しなきゃいけなくて、そんでもって、お金で点数買えるならラクだなーと思って、つい」
「ついでやって良いことではないですよね」
 火憐は口を膨らませ、指を突きつけてくる。
「いいですか月峰君。貴方一人は『カンニングで点数が取れた。欠点をまぬがれた。万歳』それでいいかもしれません。別に貴方一人にしか影響が出ないのであれば、カンニングのするしないは貴方の人生において貴方が判断したことだから、私は文句を言いません。
 ですが、ここは学校、共同生活の場です。貴方がお金で点数買うことで、成績の順位などが本来あるべき正しい順位ではなくなります。
 また、他の生徒もお金で点数を買いたい、などとなってしまえば、モラルが崩れてしまいます。一度モラルを失ってしまうと、他のことでもモラルを失ってしまう可能性があります。そういった人が増えると平穏が乱れてしまいます。それはダメです。
 カンニングについてもう一つ、別の話をしましょう。
 例えば大学入試でカンニングをした場合、貴方は本来受かるはずだった誰かを蹴落として受験に合格することになります。それは貴方にとって心をまったく痛めない出来事ですか? 最低な行為だとは思いませんか? 
 月峰君がそこまで考えた上でカンニングをするのなら、私は止めません。
 ただ、現場を押さえるのみです。
 所詮カンニングかもしれません、でも、私にとってはされどカンニングです。
 平穏は一瞬で崩れます。小さなモラル崩壊でも、共同生活の場を崩壊に導くリスクは消すに越したことはありません」
 火憐は雄弁に語り、自身の主張を述べた。
 時夜は頭をかきながら、
「正論だ。いや、悪かった。そういう見方もあるよな。わかった、カンニングなんてもうしねーよ」
 すまなそうに、素直に頭を下げて謝罪した。
 火憐は瞳を輝かせ、時夜の手にぎって、
「おおおおおおおお!? どうしたんですか月峰君!? 今回はとても素直じゃないですか! 
 今までは猪狩君よりもひどくしつこい屁理屈をこねて私を困らせに困らせに困らせたのに、今日はまるで政治家のように態度が反転、逆転、くるりんぱじゃないですか! 
 いやはや、私の言葉がついに通じたんですかね! うんうん! きっとそうですね! 
 いやー、貴方ならわかってくれると思ってました! 
 ここでちゃんと『ごめんなんさい』が出来た貴方なら、きっと今後の人生でもヘンな誘惑に負けることはないでしょう! 月峰君の今後の人生を応援します! 
 悠里との関係も応援します! 頑張ってください!」
 捕まれた時夜の手が上下に勢いよく振られる。
「では、用事はこれだけなので失礼します。悠里、月峰君が改心したからデートしてあげてね。以上!」
 吸坂火憐は己の目的を達成し、スキップしながら屋上を去っていった。
「火憐、元気だねぇ~」
「ああ、こう、歳相応の若さってああいう感じなのかな」
「きっと正論を言えるから若いんだよ」
「納得」
 残された二人が年寄りめいた会話をする。
「まあ、デートしろってことだし、今日の放課後はらぶらぶデー――」
「――らぶらぶ抜きでアイスおごってくれるならいいよ」
 邪気のない笑みで、悠里は時夜にデートの条件を突きつける。
 時夜は財布の中を確認し、
「……マカセロ」
 夏の日差しがじりじりと屋上を焦がす。








 昼休み。時夜が火憐の説教を受けていた頃。
 職員室から最も遠い美術室。
 その手前に設置されたトイレに、
「ふー。でなぁ――」
 薄い煙が漂っていた。
「へー。はぁ――」
 煙草を吸う三人の男子生徒がそこにいた。
 夏服をだらしなく身体に着せている。
「ぷはー。そうそうー」
 トイレのドアが開かないように掃除用具で固定し、喫煙に浸る。
 昨日見たテレビの話、万引や盗撮自慢、他人の悪口、聞くに値しないどうでも良い話に彼らは花を咲かせる。
 煙でつながれた友情があるのか、彼らはお互いの話に興味心身で、どんな話をしても楽しそうに笑い、煙を吐く。
 三人のうち一人が、
「なあ、強姦レイプに興味ねえ?」
 唐突にそういった。
 残り二人は一瞬固まって、
「犯罪じゃん」
 と笑い飛ばした。
 発案者は携帯を取り出し、
「これ、水泳の授業を盗撮した奴なんだけど、ほらこの、超ヤリたくね?」
「うわ、勃ったわ。おっぱいでっけえ!」
「尻もいいわ。やべ、抜きてえ」
「だろ? だからこの娘を襲って、中にビュッビュッってしたいじゃん」
「……でもどうやんの?」
「だな、すっげーレイプしたいけど、方法がなぁ」
 三人は頭をひねり、策を出し合う。性欲の捌け口を求め、写真の女子生徒の強姦計画を真剣に練る。
 より具体的に、より成功率の高い犯罪を目指し、計画の現実性を高めていく。
「必要な道具はこれぐらいで、かかるお金がこれぐらいか……へへっ、イケるわこれ」
「つか、この娘処女かな? 処女をレイプできたらオレ逮捕されてもいいわ」
「写真とか動画を撮って脅したら何度も犯せんじゃね?」
 犯行への妄想を広げる三人。
 真剣に計画を練りすぎたせいか、トイレの奥、なぜかしまっていた個室が開いた事に気づかなかった。
 音もなく静かに開いた個室から、人影が露になる。
 一歩一歩、確実に人影は三人に近づいていく。
 三人は未だ気づかない。
 携帯の盗撮写真――女子生徒のスクール水着姿――を食い入るように見つめながら、三人は強姦の願望を実現させようと、さらに案を練る。
 人影はナイフを取り出し、振り上げる。
「今まで出た案で一番良いのは、やっぱ家までつけて、ドアを開けた瞬間に――」
 男子生徒の声が止まった。
「ドアを開けた瞬間になんだよ、はやく言えよ」
「言うまでもないってことだろ? つまり、そっから――」
 声を止めた一人の回答を待たず、二人は会話を続ける。
 想像の強姦現場に興奮し、声の抑揚は止まることを知らない。
 携帯画面のスクール水着の女子生徒を食い入るように見つめ、吐息を吐きかけ、服の上から自身の股間を愛撫する。
 その背後で友人が一人心臓を突き刺され倒れ伏しているという事実に気づくことなく、なお、強姦の計画に熱を込める。
「そういや、この娘なんて名前なの?」
「この写真じゃ名前が見えないな。他の画――」
 そしてまた一人、音もなく絶命する。
 正確に言えば、一人目が絶命した瞬間から多少の刺殺音が出ていたが、写真の女子生徒に夢中になっていたせいか、男子生徒達は気がつかなかった。
「次、次、次、あった、わかったぜ! ってあれ?」
 写真からふと目を逸らし、名前がわかったことを報告しようとして、
「満足イクまで妄想出来たか?」
 知らない男子生徒に話しかけられた。
 軍手を装着し、夏服の左袖を肩までまくりあげている。
 左肩から腕にかけて、奇怪な紋様が刺青のように入っている。
 右手には赤に染まったダガーナイフ。左手には――。
「本来なら雄の機能を殺すんだが、世の中には表現規制というものがあるからな。右手の恋人と別れてもらった」
 刺青の男子は右手を二つ放り投げた。
 赤く染まった二つの右手が、男子生徒の頬に当たる。
「ひっ――」
「おっと、声を出すなよ。大声を出すなら殺す前に斬り落とす」
 ナイフを向けられる。
 男子生徒は喉の動きがわかるように息を飲み、押し黙る。
 周囲を見渡してみると、左胸を真っ赤に濡らした友人二人が倒れていた。
 口元に血がこびりついている。
 口を押さえつけられ心臓を突き刺されたのなら、確かにそうなるかもしれない。
 犯人は刺青の生徒で間違いないだろう。
 男子生徒は震えながら両手を上げ、
「こここ、殺さないでくれ」
 命乞いをした。
「何だ、お前は殺される覚えがあるのか?」
 刺青の殺人犯は、血のついたナイフと男子生徒を交互に見やりそういった。
「へ?」
「おかしいな。俺はお前を知らない。たった今、ここで初めてお前の顔を見た。なのにどうして、俺はお前を殺すんだ? いや、なぜ俺がお前を殺すと思っているんだ? そもそも俺は、個室で一人、お気に入りの紋……刺青を眺めていただけだが?」
 殺人犯は楽しそうに問いかける。
 男子生徒は少しうつむき、目を閉じる。
 数秒そのままで、
「ない。そうだ、俺には殺される理由がない。そこの二人にはあったかもしれない。でも、俺には殺される理由がない。アンタが殺したことを誰にも言わないから、俺をこのまま逃がしてくれ!」
 男子生徒は汗をにじませ、頬から垂らしてそう答えた。
「お前がそういうのなら、そうなうなんだろう。よかろう、お前がこのことを口外しないと信じる。携帯を置いて、三秒以内にここから去れ」
「は、ははッ――!」
 引きつった笑みを浮かべ、男子生徒は指示通り携帯を置き、反転。
 ドアへ駆ける。
「!?」
 しかし、入り口のドアは簡単に開かないよう固定されている。
 ドアノブと室内上部の水道管がホースで結ばれており、トイレのドアは外側に開かないようになっている。
 男子生徒では水道管の位置まで手が届かない。手が届く一人はすでに殺されている。
 ドアノブ側のホースの結び目を解こうと試みた。が、思った以上に固く結ばれており、三秒で解くのには無理があった。
「三秒経った。視界から消えないのなら死んでもらおう」
 殺人犯はつぶやく。その口ぶりは、元々殺すつもりだったように感じさせる。
「ちっ、こうなったら……っ!」
 男子生徒はドアに体当たりを放った。
 全体重、命を守るための決死の突撃。
 ドアは前方に倒れるように壊れ、ホースに引っぱられ、弱々しく内側に引きずられる。
「っし!」
 男子生徒は壊れて横たわったドアを飛び越えて、外へ向かう。
「ぐぁ――っ!?」
 しかしトイレから脱出した瞬間、男子生徒の左肩に激痛が奔る。
 背面左肩、三角筋を貫くようにしてナイフが突き刺さっている。
 先ほど殺人犯が手にしていたのとは違うナイフ、投擲用の手投げナイフだ。
 男子生徒がよろけてうずくまる。
 殺人犯がトイレの中から出てくる。
 男子生徒は職員室方面へ向けて逃げようと向き直り、
 殺人犯はその行方を遮らんとダガーナイフを振り上げ、
「死ねるか!」「死ね!」
 嬉々として振り下ろされるナイフ。
 標的にされた男子生徒は体を横転させて回避する。
 立ち位置の関係上、男子生徒が横転できた方向は他の生徒や職員がいる教室や職員室側ではなく、誰もいない、いるはずもない行き止まり、美術室側だった。
 男子生徒は苦虫をつぶすような表情で唯一の逃げ場、美術室に入り込む。
 殺人犯は追わず、一旦トイレに戻り、盗撮画像が入っている携帯電話を拾い上げた。
「さて、誰を犯そうとしていたのか……」
 携帯電話の液晶画面をのぞく。
 そこには発育の良い女子生徒。その顔と胸と尻、全身図が複数枚撮影されていた。
「あぁ、時夜の彼女か。まあ、スタイルは抜群だな。だが、俺は画面の隅に写ってるつるぺたの火憐の方が……と、画像の堪能はあとでいいか」
 殺人犯――猪狩明道は盗撮画像の入った携帯をポケットにしまい、美術室へ向かった。








 美術室。職員室からもっとも遠い教室。
 猪狩明道はダガーナイフを片手に教室に入る。
 乱雑に置かれた机。
 散らばった水彩道具。
 デッサン用の石膏像などが目に映る。
「さて――」
 授業でもなければ、部活でなければ誰もいないはずの教室。
「――どうしたものか」
「ち、近づけばこいつを殺す」
 石膏像の横、人質・ ・を取っている男子生徒の姿が映った。
 先ほどまで左肩に刺さっていた投擲用のナイフを引き抜き、人質の首筋に赤に染まったナイフを当てている。
 男子生徒は震えながら、人質を盾にするようにして叫ぶ。
「ど、どっかいけ!」
 おそるおそるといった様子だ。
 明道はさほど気にした様子もなく、 
「運が悪いな、在素ありもと
 人質に話しかけた。
「まったくだ。俺は一人楽しく嫁を描いていただけなんだがな」
 在素と呼ばれた人質は不満を最大限に表す。
 側にはノートパソコンとタブレットが置かれている。
 画面にはお絵描きソフトが開かれており、可愛らしくも凛々しいアニメ調の女の子が描かれている。
 右手にはパソコンで絵を描くためのペンが軽く握られていた。
「しゃ、しゃべるな! 本当に殺すぞ!」
「お前の方こそ殺すぞ凡人モ ブ
 人質は空気を凍りつかせるような低い声でそう言った。
「お前が誰かは知らない。お前が誰かなんてどうでもいい。だが、俺の創作を邪魔し、俺が嫁と触れ合う時間を奪って……お前の方こそこのままただで済むと思ってんのか? あぁ……ムカつくんだよこのゴミクズ野郎!!!」
 人質は自らの首に当てがわれたナイフを左手で握り、奪い取り、振り向きざまに男子生徒を殴り飛ばす。
「……ほう、在素が怒るのを始めてみた」
 明道は「珍しい」と喜びながら、人質ではなくなった男子生徒――在素ありもと創一そういちの動向を見守る。
 創壱はナイフを力強く握り込んだ左手を見やり、舌打ち。
 手のひらに食い込んだナイフを引き抜き、逆手に持ち直す。
 殴り倒した男子生徒の胸倉を掴み、
「創作家にとって何よりも大事な手、俺の左手が俺の命ごときを守る為に怪我をした。この怒り、この殺意……死んで思い知れ!!!」
 ナイフが男子生徒の右眼球に向かって振り下ろされる。
「ぅ――がっ!?」
 男子生徒は痛みのあまり叫ぼうとしたが、即座に喉をわしづかみにされて発声を封じられた。
「しゃべんな凡人モ ブ。お前はもう死ぬんだよ、俺を殺そうとして正当防衛で殺されるんだよ。名前すら知られず自業自得で死ぬんだよ!!!」
 右眼球に突き刺さったナイフが勢いよく引き抜かれ、勢いよく左眼球に突き刺さる。
「でも安心しろ。俺は創作家だ。この殺人、表現の糧にしてみせる。あー感謝してやるよ。殺人は初体験だが、やっぱ創られた殺人劇よりも、実践の方が心を動かす最高の実体験だよなぁああああああ!!!」
 一突き、二突き、三突き、四突き、五、六、七、八、九、十……。
 右手で喉を握りつぶしながら、ひらすら顔面にのみナイフを突き立て続ける。
 虐殺のごとき私刑。
「手に伝わる脈の鼓動! ナイフを引き抜くたびに吹き上がる血液! 色! 匂い! 顔色変化! この感情ム ネの高鳴り! 追求するべき創作素材に魂を揺さぶられる! いいぞ! いいぞ! いいぞ! 死ね!!!」
 叫びながら、さらにナイフを突き刺す。
 男子生徒はとうに息絶えていた。
 創壱は死が確定した相手を見やり、
「十五秒! 俺の初殺人は十五秒か! 役に立ったぞ凡人モ ブ! さあ、服をはいでやる! 当然失禁してるよな? 絞殺っていったら失禁だよな! オーケー予想通りだ!
 そうだな、こういうときに尿の色や温度から殺した相手が何を食べていたのか、健康状態はどうなのかを描写できたりしたら、俺の表現は、俺の嫁を彩る世界の描写はさらに深まるよなぁぁあああああ!!!」
 狂ったように奇声をあげる創壱。
 狂気を越えた狂喜。
 明道は創壱の心底楽しみ狂う様を見て、
「実に素晴らしい殺し方だったぞ在素。君は本当に尊敬できる。ああ、上級生とはこうあるべきだ」
 拍手を持って賛辞を送る。
 拍手の音で我に返ったのか、創壱は急に大人しくなり、
「さて、逮捕されないためにはどうするべきか……明道、何か良い隠蔽方法を知らないか?」
 明道は肩をすくめ、
「隠蔽は知らんが、証拠の偽装は得意だ。任せてくれ」
 現場を見渡し、てきぱきと工作を行う。
 創壱のパソコンが置いてある机の横に他の机を持ってくる。
 その机の上に木材と彫刻刀を置く。
「創壱、この木材と彫刻刀に君の血を付けておいてくれ。
 君は周知の事実として、美術室を良く使っている。
 だから何かしら、捜査のために情報を求められることがあるだろう。
 確認する時間がないんだが、さっきナイフを握ったせいで、君の血液が床に落ちてしまった可能性がある。
 念のため『大好きな嫁を彫刻で表現しようと思った。
 が、いざやろうとして手を切ってしまい。萎えて、友人の猪狩明道と休憩がてら校内を散歩した。
 トイレでゲラゲラ笑う声がしたが、前々から煙草を吸う不良がいたことを知っていたので、触れず、そのまま校内をうろうろしていた』というシナリオにしておこう。
 より具体的な時間と二人の行動をあとで決める。
 証言の食い違いをなくすことは、逮捕までの時間を限りなく延ばせすことに繋がるからな。
 君なら大丈夫だと思うが、いつもと違う表情、人を殺してビクビクするような表情はするなよ」
「もちろんだ。そんな凡人モ ブみたいなことはしない」
「警察は優秀だ。捕まる可能性を考慮しつつ、いざ本格的に疑われたときのために、逃走手段、経路を練っておくといい。よし、制服についた血は水と絵の具で誤魔化して、とっととここを離れよう」
 工作を行い、二人は美術室を出て何事もなかったかのように校内を歩き回る。
 つい今まで殺人をしていたなどとは思えないほどに、二人は日常会話に華を咲かせる。
 二人の殺人犯は何事もなかったかのように昇降口付近の自販機の前に立ち、一人はウォータークーラーの水を、一人は自販機の炭酸飲料に口をつける。

――だ、誰か!!! 人が死んでます!!!

 遠く、美術室の方から聞こえた悲鳴を肴に、互い、好きな飲料を飲み下す。
「「ああ、旨い」」
 昼休み終了のチャイムが鳴った。








 時刻は午後三時。
 学校裏手のショッピングモール。国道沿いに一.五キロメートルにわたって建てられた県内最大規模の複合商店施設――豊跡タウン。
 市民からは『とっタン』と呼ばれ、豊跡高校の学生などは帰りにゲームセンターで遊んだり、飲食店エリアでご飯を食べて帰ることが多い。
 そんな豊跡タウンの休憩エリア。
 ベンチとテーブルが定間隔に設置された広い室内の片隅に、月峰時夜と魅刻悠里の姿があった。
 二人がけの小さな円形テーブルに、対面するように座っている。
「美術室前で殺人があったって噂、どう思う?」
 時夜は身銭をきって買ったアイスを悠里に渡しながら訊ねる。
「さあ? 事実が明かされない限り、何を考えても想像でしかないよ。それより、私はアイスを楽しみたいから面白くない話はだめー」
 悠里は渡されたレモンアイスをちろちろと舐め、幸せそうに頬を撫でる。
「りょーかい」
 時夜は半目でうなづき、バニラアイスを舐める。
 学校は急遽休校となった。
 詳しい事情は知らされず『学校運営上の深刻な諸問題に教員全員で対処するため休校にする』という校内放送だけが生徒には伝えられた。 
「よくわかんねー言い回し……」
 詳細は知らされていないが、もっぱら『美術室付近で殺人があった』とのウワサである。
 回りまわってきた話であるため、確認もしてなければ、殺人があったのかどうかさえわからない。
「考えても無駄だな。よし悠里、ゲーセン行こうぜ! 格ゲーだ格ゲー」
「いいよー。今日もボッコボコにしてあげる。あ、もちろん初回のワンコインは時夜のお金で」
「ひでぇ!」
「だいじょぶ! そのワンコインがあれば居座れるから!」
 事実、それから数時間、魅刻悠里はただの一度も格闘ゲームで負ける事はなかった。








 時刻は午後十時。ほぼ全店の営業が終了した豊跡タウン。
 裏側駐車場の外側に、月峰時夜と魅刻悠里の姿があった。
 あたりは真っ暗で、他の客は見当たらない。
 時夜の予定ではゲームセンターで遊んだら帰る予定だった。
 しかし、圧倒的無敗で格闘ゲームを満喫した悠里があまりにもご機嫌で、急遽デートの継続を申し出たのである。
 その珍事に驚きつつ、時夜は即答でデートの延長を承諾した。
 が、悠里の真意は時夜と一緒にいたいとかではなく、夕飯をおごって欲しかっただけだった。
 悠里は焼肉を驕って欲しいと言った。
 時夜は二つ返事をしようとしたが、財布の事情を考えて断った。
 が、悠里はあろうことか、体――主にその発育の良い胸の柔肉を時夜に押し合てて上目遣いで懇願してきたのだ。
 こうなれば時夜に拒否権などない。
 時夜は一切の不満なく、むしろデレにデレて、悠里との焼肉デートをガッツポーズで承諾した。
 結果、飲食店エリアの閉店時間まで焼肉食べ放題を堪能し、現在に至る。
「いやっはー。余は満足ぢゃ。ちこうよれ時夜、褒めて使わすぞい」
 口を「ω」の字にして時夜の頭を撫でる悠里。
 時夜は恥ずかしそうに、
「や、やめ……すんません、もっと撫でてください。もう存分に撫でてください」
「素直でかわいいのぅ~」
「お年玉と小遣い溜めてて良かった! ホントよかった!」
 頭を撫でてもらい、時夜は今にも昇天しそうな勢いである。
 俗に言うリア充がそこにいた。
 第三者が見れば誰もが爆発しろと言いたくなるような二人は、他愛ない会話をしながら、駐車場わきの歩道を歩く。
 あとは帰るだけだ。
 不意に、時夜の視界の傍ら、一台の車が駐車場に入り込むのが見えた。
「ん? 今の時間からここに来て何すんだ?」 
「映画じゃない? 確か深夜一時くらいまで映画やってたはずだよ」
「なるほど……金に余裕があれば、今からでも映画デートに持ち込めたのか」
「映画よりご飯おごってくれるデートの方が乗り気になるよ。うん、次は回らないお寿司屋さんとかが良いな」
「……小遣い降ろしとく」
 溜息を吐きつつ、時夜は「交際費……」と小さくつぶやき、遠くを見る。
「ってあれ? 今入った車、駐車場こんなにあいてるのに、何でわざわざすでに止まってる車の隣に止めたんだ?」
 映画を見に来たと思われる乗用車は駐車場奥、ポツリと止められていた一台の車の真横に停車した。
 停車して少し時間が経つが、車内から人が出てくる気配はない。
 しばらくして、ドアが開く音がした。
 同時に、下品な笑い声が聞こえた。
 悠里の表情が急に凛々しくなり、
「伏せて」
 声と同時に、時夜の膝がかくんと曲げられる。
「のっ――んぐ……」
 反射的に声を出そうとした時夜の口がふさがれる。
「しっ」
 耳元でささやかれ、時夜は正座のまま大人しくした。
 駐車場わきの歩道、駐車場よりも低い位置の路面から、不審な駐車をのぞき見る。
 同じ向きに止められた二台の車。
 悠里と時夜の位置からだと、もともと停車してあった車が手前に、さきほど停車したばかりの車の後部が奥にかすかに見える程度だ。
「何か作業してるね……車上荒らし、かな。人数は、二人」
 姿、体型、性別などは死角になって見えないが、車の下の隙間から、足の数だけは確認できる。
 小さいが、ガラスが割れるような音が聞こえた。
 周囲は道路、山、畑が多くを占めているため、通行人でもいなければこの音を聞いた者はいないだろう。
 近くに民家やマンションが数件あるが、たいして大きくないガラスの音が届いているとは思えない。
 聞こえたとして、確認する必要を感じるほど大きな音でもない。
「車上荒らし確定だね……見てみぬ振りをすれば、問題なくここを去れるね。時夜、見つからないように帰ろ――って、何不機嫌そうな顔してるの?」
「別に。いや、見てみぬ振りをするのが正解だけどよ、このまま車上荒らしが金品奪って得するのは腹立つぜ」
「じゃあ、通報すればいいよ。車のナンバーをチェックして、警察にトゥルル」
「……そうする」
 携帯を取り出す時夜。未だ作業を続ける二人組みの小さな作業音だけがこちらに響いてくる。
 気づかれないように顔を乗り出し、そのナンバーを覚える。
 そして一一〇番通報をしようと通話ボタンを押そうとしたところで、
「何してんの、オマエラ?」
 背後から呼びかけられた。
 時夜はハッとして振り向く。
 振り向いた先には視界を埋め尽くすほどの大きな拳。
「っでぇ!」
 直後、時夜の体は仰向きに浮き、背中から倒れる。
 殴られた拍子に携帯電話も宙に浮いたが、それは悠里がキャッチし、ダイヤル画面を切って、スカートのポケットにしまった。
「おーい。"トモダチ"が来たぜー」
 青年は何事もなかったかのように、軽い声を駐車場奥の不審な車に投げかける。
「あいよ、今行くー」
 同じように軽い返事が返り、車の影から一人、こちらに向けて歩き出す。
 どうやら相手は三人体制だったようだ。
「月峰君、大丈夫!」
 突然、とてつもなく女の子らしい仕草で悠里が時夜に近寄った。
「へ?」
 思わず素っ頓狂な声を上げる時夜。
 悠里は尻餅をついた時夜を抱き起こすようにして、

――実践、する?

 そっと耳元でつぶやいた。

――覚悟が定まってるなら、貸すよ・ ・ ・

 時夜の肩がビクンと反応する。
 現状、月峰時夜の目の前に害悪ク ズがいる。
 他人の車を荒らし、金品を強奪し、目撃者を殴るという、確かな害悪ク ズが目の前にいる。
 仲間と思しき一人がこちらに向かっている。
 もう一人は車に乗り込んだらしく、犯人達の車は駐車場を出ようとしており、こちら側にウインカーを光らせている。
 時夜はそれぞれを見やり、
「殺すほどじゃ……ない」
 答えをつぶやく。
 それに反応して青年は「あ?」と、怪訝そうに眉をひそめる。
「てめーらは害悪ク ズだけど、殺すほどじゃねえ。奪ったものを素直に返して、なんか壊したなら修理代置いて、警察に自首するか家に帰れ」
 時夜は青年の目を見据えて言った。
 悠里はやれやれといった表情で「お優しいことで」とつぶやき、ジト目な視線を横にずらす。
「お前何言ってんの? おい聞いてくれよ仲居。こいつ、俺たちに自首しろとか言ってんだけど? 何もしてない、善良な俺たちに」
「へー、そいつは遺憾だなぁ。まことに遺憾だわぁ……名誉毀損だわぁ……訴えるわぁ」
 仲居と呼ばれた男が時夜達のもとへ到着する。
 ニヤニヤとしながら、手に持った赤い短棒状のモノ――自動車用の緊急脱出ハンマーで自身の肩を叩く。
「その制服、すぐそこの学校のだろ? 覚えた。殴んないでおいてやるから――ほら」
 手のひらを差し出してくる仲居。
 時夜はその手のひらに唾を吐きかけ、
「ざけんな。黙っててやるからお前が金を出せ」
 そう言って仲居の股間を蹴り上げる。
 内股になって悶絶する仲居。
 前のめりになった仲居の首に、時夜のつま先蹴りが叩き入れられる。
 仲居は喉から変な音を出し、前倒する。
 時夜は仲居の手から赤いハンマーを奪い、傍らの青年に殴りかかった。
 短くも赤い槌撃が空間を薙ぐ。
「あぶねっ――!」
 青年は後方に跳躍し、間一髪でハンマーを避けた。
 時夜と青年の間に距離ができる。
「桜井、コレ使え!」
 いつまにか近くに停車していた犯行グループの車から金属バットが放り投げられる。
 桜井と呼ばれた青年は金属バットを受け取り、正面に構え、時夜に向き直る。
「へへっ、ガキの正義なんざ、大人の正義で叩きのめしてやんよ!」
 金属武器が振りかぶられ、勢いよく水平に抜かれる。
「何が正義だクズ野郎。んなもんこの世にねえっての!」
 時夜は大降りの攻撃をしゃがんでかわし、桜井の腹を押すようにして蹴り飛ばす。
 その勢いを利用して後方へ後ずさる。
「はぁ……はぁ」
 時夜の息は上がっていた。
 表情に余裕はなく、汗は滝のように流れている。
 唾を吐き捨て、
「オイ悠里。実践ってのは、殺しじゃなくても相当緊張するもんなんだな。こんな知らない奴でも、死んでも問題ない奴でも、戦うと決めて向き合うのには覚悟がいりやがる!」
 時夜は桜井に向けてハンマーを投げつけ、低姿勢で突進した。
 赤い短槌は回転しながら標的へ疾走する。
 当たれば内出血や青痣は避けられないだろう。
「くそったれ!!!」
 しかし、桜井はハンマーを顔面で受け、突進してくる時夜に向けて金属バットを縦一文字に振り下ろす。
「死ねっ――!!」
 額から血を流し、桜井は眼前低姿勢の時夜に叫びを上げる。
 金属バットが標的の頭蓋を目前に捉え、粉砕しようと直下する。
 だが、突如標的は突進の方向を捻じ曲げた。
 垂直に降ろされたバットに当たらないように、時夜は桜井の横を通り抜けるようにヘッドスライディングを決めた。
 バッドが地面に振り下ろされ、地面と激突する。
 その衝撃に桜井の表情が歪む。
 時夜はヘッドスライディングの姿勢から前転し、流れるように立ち上がって足を振りかぶる。
 桜井が振り向くのを見計らい、その顔面めがけて履いていた左足の靴を蹴り飛ばす。
 靴は桜井の視界を覆うようにして当たり、よろけさせた。
 先ほどハンマーが当たった箇所に靴のつま先があたったためか、桜井は悶絶し小さな呻き声を、そして力強く咆哮をあげる。
「っぜえ!!」
 桜井は目を見開き、怒り狂った形相でバッドを振りまわす。
 当然、目標を定めずに振るう暴撃のため、誰にも当たらない。
 時夜はバッドを振り終えた瞬間を狙い、跳躍、敵の正面で体をひねり、靴を履いた右足つま先を疾風迅雷の如く、桜井の喉下に叩き入れた。
「ごぶっ……!」 
 桜井は白目を向いて仰向けに傾き、
「ざまぁ……」
 時夜は空中から真下に向けて重力に導かれる。
 両者は同時に地面に落ち、おのおの呻き声漏らした。
「か、勝った……っ!」
 息を切らし、仰向けになる時夜。
「……ッ!」
 そして仰向けの視界を覆う、もう一人の敵に目を奪われた。
 車の運転手、桜井に金属バットを渡したラスト一人。
「残念でした……っ!」
 包丁を逆手に構え、時夜に向けて振り下ろす。
 回避できない。
 かわそうとしても、息切れした体では反応が追いつかない。
「っ―――!!」
 声にならない声をあげて体をひねろうとするが間に合わない。
 無傷の敵が全力で時夜を殺しにかかる――!
 

――"対物空間固定静止・伍"

 しかし、包丁が時夜の肉体カラダに突き刺さることはなかった。

――四。

 銀色の線が奔り、包丁を持った『敵』の首が切断される。

――参。

 包丁は時夜の心臓手前で空間に固定されたように静止している。
 
――弐。

 銀色の直線軌道が倒れていた仲居の心臓を貫通する。

――壱。

 肌色の美脚が倒れていた桜井の首を踏み粉いた。

――零。

 宙に静止していた包丁が自然の重力に引かれ、ゆっくりと時夜の胸に倒れかかる。
 殺意を忘れたように、包丁は時夜の胸で静かに横たわる。
「私は『敵は殺す』って考えるから、こうするかな。時夜みたいに叙情酌量するのはめんどくさい」
 返り血を一滴たりとも浴びずに、少女は明るくVサインを作ってみせる。
 時夜は倒れたまま、自然と見えてしまう悠里のスカートの中をチラチラとのぞきながら、  
「容赦ねーんだな。ま、その割り切った感じに憧れてるんだけどな」
「パンツのぞく人に憧れられても嬉しくないけどね」
「いやいや、俺もそのパンツみたいに、青一色、冷淡でありたい」
「私のパンツの色で話を広げるのもどうかと思うから、とりあえずここを離れよっか。いつ人が、車が通るかわからないからね。人を殺す上で大事なことは、目撃されないこと、現場に証拠を残さないことだよ。ほら、左の靴を回収して。とっとと逃げるよ。あと、靴の跡が敵の顔に残ってるから、もう明日からその靴で外出しちゃダメだからね」
「了解」
 二人はそうしてそそくさと現場を去った。








 虫の声がささやかに鳴り響く豊跡自然公園。
 豊跡タウンから徒歩三十分。
 一面を覆う芝生を乗り越えた公園奥、河原付近のベンチに時夜と悠里は腰を下ろしていた。
「敵意を向けられたわけだし、やっぱサクッと殺したほうが良かったのかもなぁ~」
 自販機で買ったペットボトルの緑茶を口に運び、時夜は一人、反省会に明け暮れる。
 悠里はその隣でスポーツ飲料水のペットボトルを四本空け、さらにもう一本に手を出していた。
 もちろんすべて、時夜のお金で購入したものである。
「結局、殺さない場合はただの肉弾戦になるから、それだったら逃げて警察呼ぶ方が正しいよなぁ……」
 時夜は立ち上がって前に出る。
 先ほどの戦闘で取った動きをゆっくり再現したり、腕を組んでぶつぶつとつぶやいたりを延々と繰り返した。
 しばらくそのまま時間が過ぎ、
「よし、一人反省会終わり。悠里、考えがまとまったから話を聞いてくれ」
「ん? あ、うん、良いよ~」
 ベンチで横になりながら、スマートフォンをいじっていた悠里が体を起こす。
「戦闘編。習ったとおりの格闘はできなかったけど、ほぼ無傷で生き延びれたから及第点だと思う」
「うん、始めて会ったときのフルボッコ状態よりは全然動けてたね。仮想イメージとはいえ、敵を意識して殴る、蹴るの動作を続けたのは意味があったってとこかな。六十七点」
「精神編。悠里が俺に『ナイフを使って殺すかどうか』の判断を迫った時。俺は、あそこで判断を間違えたんじゃないかって思う。今回の場合、敵は俺たちに危害を加える気まんまんだったし、説得が通じるような人間でもなかった。俺は始め、人的被害が出てないから殺す必要はないって思ったんたが、あいつらみたいに『犯行を見られたら危害を加える』ような害悪ク ズなら、さっさと殺したほうが良かったのかもしれない」
「難しいところだね。私みたいに『敵は殺す』っていうシンプルな行動原理ならともかく、時夜の場合は『より楽しい明日のために、障害となる害悪ク ズを殺す』だから、その時々で判断必要になるよね。で、それは私が決めることじゃないから、時夜自身が殺す基準をもっと明確に定めて、判断速度をあげるしかないんじゃないかな? ということで採点不可」
 簡潔な反省会はそれで終わった。
 時刻は深夜零時前。
 そろそろ帰ろうと言うことで、二人は公園の外を目指す。
 途中、誰もいない芝生の上で、
「それはそうと、さっきのアレ。包丁が止まったヤツ。何? 目の錯覚とかじゃなくて、確かに空中で包丁がピタって止まってたんだけど?」
 時夜は悠里に質問を投げた。
「さあ。世界を広げる『ふぁんたじー』なんじゃない?」
 悠里はニヤニヤしながら答える。
「知ってるけど教えてあげないって顔してんな。ムカつく……」
 時夜はぶつくされた。
「ま、時夜が本当に人を殺すことができたら、教えてあげるよ」
 悠里は唇に人差し指を当て、ウインクをした。
 時夜はにやけないようにつとめながら、結局にやけた。
 月のない夜。
 星は綺麗に光っていた。





第一章:副業/本業/外道へ
第三章:機械の如くへ
製品版はこちら